「東アジア環境史・民族史・社会史」
研究教育プログラム 招聘研究者

王 大学 / wang daxue

経歴
2001年河南師範大学(学士号取得)
2004年復旦大学 歴史地理研究中心(碩士号取得)
2007年復旦大学 歴史地理研究中心(博士号取得)
2007年~中国 復旦大学 歴史地理研究 中心講師

研究テーマ
乾隆南巡と両浙魚鱗大石塘の景観過程

銭塘江の河口は潮の流れが激しいことで有名で、
その上流は水が豊富で砂が少なく、海に到達すれば砂が多い。
河口部は幅広で浅く、川底は細かく柔らかで、
潮が激しく流れ、満ち潮は力強く押し寄せる。
また、その河道は絶えず移動し、河岸は崩れては堆積して定まらず、
特に縦方向の堆積が激しい。
かつての銭塘江河口の両岸の防波堤は、
太湖平原の南の縁と寧紹平原の北の側に位置し、
歴代の為政者はその工事を非常に重視してきた。
河岸堤防は、自然・社会が相互に作用した景観の典型的なもので、
計画・施工過程での複雑な人為的な要素、
海岸に対する防波堤の変遷、周辺の生産環境が影響を与える。
防波堤のような大型公共水利工事は、
工事技術だけでなく、さらに大規模な社会及び環境の相互関係が問題となる。
季節・技術・原料は人の活動の関係を複雑にし、
堤防修築もまた技術及び生態と社会の要素が工事の進展と
施工者の問題解決の考え方とに影響を及ぼすという、
この両者の構造は「環境―社会の動向」が問題理解の鍵となり、
これは社会と生物の物理的環境の動向に及ぶ問題なのである。
人類と自然との相互作用が、環境変化の重要な原因であることは、
明清両浙の防波堤に関する記事にすでに明らかであり、
防波堤工事中の生態と社会問題とを併せた研究を早急に行う必要がある。
本研究の主な内容は以下の通りである。

(1)堤防工事計画中の環境変化と社会が与えた影響の分析
明清両浙の防波堤建設は、技術の進歩に確かに連動するが、
歴史的産物であるので、その特定の時代背景の下で分析する必要がある。
乾隆帝の南巡と魚鱗大石塘の修築との関係を見れば、
この堤防建設は、潮汐の衝撃を防ぐためだけではなく、
より大きな視点で見れば、
乾隆帝の南巡の最中に世に繁栄を示すために
堤防工事が計画された過程についての分析が必要である。

(2)原料調達(買付け)が産地に与えた影響及びその運搬と環境・社会との関係の考察
魚鱗大石塘の工事で必要な原料は石・材木・柴草で、
大量の材料の使用は原料産地の生産系統に問題が発生したはずである。
特に注目すべきは、以下の通りである。
①原材料の調達地の時代による変化、及び原住民の環境意識とその反応。
②原料の運送ルートの復元、運送過程の価格・時季と工事技術との諸要素の相互制約の分析。
③異なる複数の行政地域から原料を買付けた際、
地方政府はどのように権益の分配と協力を行ったのか。

(3)海岸変遷・製塩場の水環境と動植物に対する防波堤工事の影響についての考察
以下に注目する。
①堤防の修築に伴い、銭塘江両岸の崩れては積みあがるという状況がどのようにして現れたのか、
この現象が堤防工事の実施にいかなる影響を与えたのか。
②防波堤が製塩場へ海水を引く水路を遮断した際、
この問題に対してどのように暗渠・水門などの施設を利用して解決し、
密接に関連する陸地の水系とどのように調和したのか。
③銭塘江の淡水と海の塩水との合流によってできた自然堤防の存続と
廃棄をめぐる近海住民の争いにどのように対処したのか。
④防波堤が保護する植物の種類の選択により、
植物の習性に人類の利益獲得の影響と衝突とがいかなるもので、
植物の種類と土壌の摂取がいかに動植物群に影響を与え、
防波堤保護の活動に影響したのか。

(4)上述してきた明清両浙の堤防工事及びその環境への
影響から浮かび上がってきた「環境と社会との動向」の問題について、
歴史地理学とIGBP、IHDPを併せた研究にどのようにアプローチできるかを探究する。